東京高等裁判所 昭和47年(行ケ)141号 判決
一 前掲請求原因のうち、本願発明につき、出願から審決の成立にいたる特許庁における手続、発明の要旨及び審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。
(一) 前掲発明の要旨によると、本願発明(一)は加熱による形状回復性の弾性体物品、同(二)はその製造方法であるが、その物品を構成する材料が(1)「弾性体と常態で固体の熱流動性物質」、または、(2)「常態で固体の熱流動性重合体と可塑剤」のいずれかの混合結果物であつて、しかも、その混合結果物が弾性体であることを構成要件とするものであることが明らかであり、成立に争いのない甲第二号証(本願明細書)によると、本願発明において「弾性体」というのは、ヤング率が三・五ないし二一〇平方センチメートル当りキログラムの範囲内にある弾性を有する物品を意味することが認められる。
ところが、引用例に、審決認定のような記載があり、これによつて「ポリエチレン」と変性剤たる「炭化水素エラストマー」とを混合してフイルムに成形し、これを材料として熱収縮性フイルムを製造する方法が示唆されていること、右混合結果物を組成する成分である「ポリエチレン」及び「炭化水素エラストマー」がそれぞれ本願発明における前記(1)の「常態で固体の熱流動性物質」及び「弾性体」に相当することは当事者間に争いがない。
それでは、引用例の混合結果物である炭化水素エラストマー変性ポリエチレン(以下、「変性ポリエチレン」という。)は本願発明にいう弾性体に当るかというと、更に検討を要するところである。
1 成立に争いのない甲第六号証(引用例)によると、引用例の明細書には変性ポリエチレンが弾性体の性状を有する旨の記載が全くないことが認められ、また、本来非弾性物質であるポリエチレンがわずかの変性によつてゴム状弾性を示す旨の被告の主張も、これを認めるに足りる的確な資料はない。もつとも、成立に争いのない乙第二号証の二には、共重合体について、エチレン対プロピレンの比が六〇/四〇ないし四〇/六〇であれば、ゴム状弾性を示す旨の記載があるけれども、この場合の変性はその比率に照して「わずかの変性」といえないのみでなく、前出甲第六号証の引用例にはポリエチレンに対する変性剤の配合ないし共重合を右場合の比率程度に行なうことさえ記載されてはいないのである。
2 審決は本願発明(二)及び引用例の方法においては、ともに混合成分の量又は割合が限定されていないことから、両者の混合結果物(混合物材料)に差異がないと認定し、また、被告は、両者において混合成分はその割合が同じになる場合があるから差異がない旨を主張するが、前出甲第二号証、成立に争いのない甲第一〇号証に弁論の全趣旨をあわせ考えると、一般に、ポリエチレンと弾性体との混合結果物全体の特性は、その成分間の量比によつてではなく、混合方法次第でその連続相(マトリツクス)を形成する成分の特性によつて決定されるものであることが認められるから、成分間の量比をもつて混合結果物の異同を推論しうるものではない。
3 そして、引用例の変性ポリエチレンは前記のようにポリエチレンに変性剤たる炭化水素エラストマーを配合したものであるが、前出甲第六号証の引用例には、その配合条件についてこれを指定または示唆する格別の記載もないのみならず、これによれば、むしろ、引用例の物品は「ポリエチレンフイルム様物」として使用されるものであることが認められるから、変性ポリエチレンの連続相を形成するものは当然その基本成分たるポリエチレンとされているものと考えるのが相当であり、したがつて、混合結果物たる変性ポリエチレン全体は、むしろ、ポリエチレンの特性によつて支配され、非弾性を具備するものであることが認められる。ちなみに、前出甲第一〇号証によると、ポリエチレンとエラストマーとを五〇/五〇の重量比で混合するについて、その連続相をエラストマーが形成する方法とポリエチレンが形成する方法との試験結果として、その混合結果物は、前者の場合、本願発明にいう弾性体の範囲内のヤング率を示したのに対し、後者の場合、右範囲外のものを示したという報告が記載されている。
4 してみると、結局、引用例の方法は、これによる混合結果物が本願発明にいう弾性体ではない点において本願発明(二)の構成要件を欠いていることが明らかであるから、本願発明(二)をもつて引用例の方法と同一であるということはできず、本願発明(一)をもつて引用例の方法によつてえられる物品と同一であるということもできない。
(二) これを要するに、本願発明について、引用例との対比により、その新規性を否定して特許を受けることができないとした本件審決の判断は誤りであるというべきであるから、右審決は違法であつて、取消を免れない。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容する。